多くの国では、軍隊は国家に属する「国軍」として存在します。しかし、中国では「中国人民解放軍(PLA)」が軍事力を担っていますが、これは中国共産党(CCP)に属する組織であり、いわゆる「国軍」ではありません。なぜ中国では「国の軍隊」ではなく「党の軍隊」なのでしょうか?その背景をわかりやすく解説します。
1. 歴史的な背景:党が軍を創設した
中国人民解放軍の起源は1927年の「南昌蜂起」にあります。この時、中国共産党は自らの武装組織を立ち上げ、中国国民党との内戦(国共内戦)を戦いました。その後、共産党は「党が銃を指導する(党指導の軍)」という原則を掲げ、軍隊は国家ではなく党に従うものとされました。
1949年に中華人民共和国が成立した後も、この原則は変わりませんでした。つまり、人民解放軍は新しい国家の「国軍」とはならず、引き続き中国共産党の軍隊として維持されたのです。
2. 「党の軍隊」である理由
中国人民解放軍が国軍ではなく党の軍隊であることには、いくつかの重要な理由があります。
- 政権維持のため
中国共産党は、軍隊が国家に属すると、政権交代が起きた場合に制御できなくなることを恐れています。実際、ソ連崩壊時に国軍化したソ連軍は、共産党の支配を守らずに解体されました。この教訓を踏まえ、中国共産党は軍の「党への忠誠」を厳格に管理しています。 - 「党指導の絶対性」の維持
中国共産党の憲法(党規約)には「党は軍を指導する」と明記されており、軍の最高指導者は国家主席ではなく、中国共産党の中央軍事委員会主席(現在は習近平氏)です。これは党が国家の上にあるという中国の政治体制を象徴しています。 - 国内の安定維持
人民解放軍は、国防だけでなく国内の安定維持(反政府運動の抑圧)にも動員されます。例えば、1989年の天安門事件では、人民解放軍がデモ鎮圧に出動しました。国軍であれば、自国民への武力行使に法的な制約が強まる可能性がありますが、党の軍隊であるため、党の意向に従って行動できます。
3. 世界の国軍と何が違うのか?
多くの国では、軍隊は国家に属し、政府の一機関として運営されます。例えば、日本の自衛隊やアメリカ軍は、国会(議会)や大統領・首相の指揮の下で運用されます。
しかし、中国では軍の指揮権が国家ではなく共産党にあります。そのため、たとえ中国に別の政党が生まれたとしても、軍は共産党の指示を受け続け、政権交代が起こる可能性は低いのです。
4. すべての共産主義国家が「党の軍隊」を持つわけではない
中国のように軍隊が政党に従属する形態は、共産主義国家の中でも珍しい例です。実際、他の共産主義国家では国軍を持つケースが多く見られます。
- ベトナム(ベトナム人民軍)
ベトナムも共産主義国家ですが、ベトナム人民軍は国防省の管轄下にあり、名目上は国軍として運営されています。ただし、中国と同様に、ベトナム共産党の強い影響を受けている点は共通しています。 - キューバ(キューバ革命軍)
キューバの軍隊も国防省の管轄下にあり、国家の軍隊としての形態をとっています。ただし、共産党の影響は強く、政府と一体化している部分が多いのが特徴です。 - 旧ソ連(ソビエト連邦軍)
ソ連時代の軍隊も国家に属していましたが、実際にはソ連共産党の影響を強く受けていました。しかし、ゴルバチョフ政権下での改革により、国軍としての性格を強めた結果、1991年のソ連崩壊後、軍の統制が取れなくなった側面もあります。
このように、中国と同じく共産主義体制を採用している国々であっても、必ずしも軍隊が党に直接従属するわけではなく、むしろ国家の軍隊として機能している場合が多いのです。
おわりに
中国では、人民解放軍は「国軍」ではなく「党の軍隊」として存在し続けています。その理由は、歴史的経緯だけでなく、共産党の政権維持と統治の仕組みに深く関わっています。この体制は、中国共産党の安定した支配を支える一方で、軍の政治的中立性の欠如や民主的な政権交代の難しさという課題も孕んでいます。
しかし、すべての共産主義国家が同じ制度を採用しているわけではなく、ベトナムやキューバのように「国軍」を持つ国もあります。そのため、中国の「党の軍隊」制度は、共産主義国家の中でも特異な形態であることがわかります。
このような中国独特の軍隊制度を理解することは、中国の政治を知る上で非常に重要です。